うちは繁華街に近い住宅地のマンションで、まわりは見渡す限り、マンションや一戸建ての建物が連なっています。森なんてまったくないどころか、雑木林や空き地のようなものも見かけません。もちろん庭のある一軒家には植物は植わっているのですが、それは手入れがされている植物で、野性のものではありません。ついこの前までそう思っていました。

8月のいつだったかは忘れましたが、その日は買い物をして自転車で家に向かっているところでした。いつもの三叉路を左に行くはずのところを、その日はどういうわけか右に行ってみたくなったのです。蒸し暑い日で頭がどうかしていたのかもしれません。で、しばらく行くと右手にうっそうとした木々が見えてきました。「あれ? こんなところにこんなところが?」なんだか奇妙な感じでした。右に木々を見ながらさらに進んでいくと、木々が途切れて目の前に小道が現れました。でこぼこしてますが片道一車線の道路幅くらいの道でしょうか。迷いましたよ。でも最終的には「うーん、こりゃ行くしかないっしょ?」となりました。相変わらずな私です。自転車を降りて、買い物袋が重かったのですがそのままカゴに入れておくのも変なので、片手に持って、その小道に入ることにしました。暑い日だったので、その木陰が涼しそうに見えたからなのかもしれません。セミの声が響いていました。

入ってすぐ後悔したのは、ヤブ蚊がすごかったからです。ブーン・・・ブーン・・・と体にまといついてきます。パチン!と叩いてつぶすものの、あとからあとから湧いてきます。ブーン・・・パチン!・・・ブーン・・・「もうっ! いい加減にして!」よっぽど引き返そうかと思いました。でも、もう少し行ったら開けた場所にでるんじゃないか? みたいな予想もあったし、だいたい住宅街の真ん中にこんな場所があること自体おかしなことなのだからすぐに反対側に出るだろうという予想もありました。でも、行けども行けどもぜんぜん果てがなかったのです。

10分か15分くらい歩いたときに池が現れました。「池まであるの??」本当にびっくりしました。せせらぎの音もかすかに聞こえてきます。住宅地の真ん中のはずなのに。なぜ? 合点がいきません。すぐに終るはずだったのに、もう森の中です。ここが富士の樹海だと言われても信じてしまうほどでしょう。それくらい完璧な自然の森でした。暗いし足元もなんだか木の根でふかふかしておぼつかない感じなんです。それから15分くらい歩いてようやく反対側に出ましたが、ヤブ蚊のおかげで体中ボリボリかきながら満身創痍の凱旋でした。達成感というよりも、ホッとしたという方が強かった気がします。どこか戻ってこれない場所に迷い込んだような怖さがあったので、住宅街が見えると本当に「助かったー!」という気持ちでした。もちろん森の中を通って自転車の場所に戻る気はせず、住宅地と森の間のアスファルトの道を歩いて最初の場所に戻り、家に帰りました。

家に帰ってからインターネットの地図を開いて調べてみました。たしかに住宅地の中の大きなエリアがぽっかりと開いていて、私が歩いた小道も点線で描かれていました。でも私はなぜか気づかなかったのです。これまで何回も何十回もインターネットで地図を見てきたのに。住んでいるところの目と鼻の先にあんな樹海があったなんて! 私の目は節穴だったんでしょうか? 理由ははっきりしていました。地図の着色が住宅地とほとんど同じ灰色なので、私はいままでそのエリアを住宅地の一部だと思い込んでいたのです。だって、公園とか動物園とかは緑色でしょ? なんであんなに緑々している樹海が灰色なのー? 私は声を大にして言いたい、私だけが節穴じゃないってことを!・・・なんて言っても、私がそそっかしいのは私を知っている誰に聞いても首を思いっきり前後させてうなずく、どうあっても変わらない事実なんですけどねー。

ですので、まとめると、あなたの近所にも樹海があるかもしれないよ! という報告です。あなたが私と同じようにそそっかしい人であればねー。でも、そそっかしいのもときにはいいんですよ。日々、驚きがありますからねー。なんて。